2020年の民法改正による消滅時効の変更点とは

最終更新日:2025年01月07日

 借金には「消滅時効」というものがあります。
 消滅という名の通り、時効が成立した場合、借金の支払義務が消えて無くなります。

 その消滅時効に関するルールを定めた法律である民法の債権法分野が、このたび抜本的に改正され、2020年4月より改正法が施行されました。

 「時効完成までの期間が伸びたの?」「自分は具体的にいつが時効になるの?」など、皆様にとって心配な面もあるかもしれません。

 ここでは、民法改正に伴う消滅時効の注意点を紹介していきます。
 過去の借金がある人や、これからお金を借りる予定がある人は、ぜひお読み頂ければと思います。

1 消滅時効までの期間の変更

 2020年4月の民法改正では、以下のように消滅時効までの期間が変わりました。

 改正前:客観的起算点から10年

 改正後:主観的起算点から5年または客観的起算点から10年

 「主観的起算点から5年」という部分が追加されたのですが、「主観的起算点」「客観的起算点」とはどういう意味なのでしょうか?

⑴  客観的起算点

 「客観的起算点」とは、「債権者が法律上の障害なく権利行使できる状態となった時点(権利を行使することができる時点)」という意味です。

 例えば5月1日にお金を返してもらう契約をしていた場合、債務者には期限の利益があるので、債権者は5月1日が来るまでは債務者に「お金を返して欲しい」と請求できません。

 返済期限が来たときにようやく、「法律上の障害なく、お金を返してほしいという権利を行使できる状態」になるのです。

 改正前も改正後も、債権が、この客観的起算点から10年の消滅時効にかかるという点は変更がありません。

⑵ 主観的起算点

 主観的起算点は、2020年4月の民法改正で新しく加わった概念です。
 これは「債権者が債務者や権利の発生、履行期の到来などを認識した時点(権利を行使することができることを知った時点)」という意味です。

 客観的起算点は、債権者の認識に左右されません。

 しかし、債権者が権利行使に障害がない事実を認識しているにも関わらず10年間も権利行使を怠っている場合に、これを保護する要請は少ないと言えます。
 権利の上に眠れる者を保護しないというのが、消滅時効制度の趣旨だからです。

 そこで、改正法では、客観的起算点とは別に、主観的起算点というもうひとつの起算点を設け、そこから5年を経過したときも消滅時効が完成するとしたのです。

 通常、債権者は、自分の権利を行使できる時点を知っていますから、主観的起算点と客観的起算点は一致するケース多いでしょう
 したがって、多くの場合、5年の消滅時効が適用される事例が増えると思われます。

 一見債務者に有利ですが、時効期間が短くなったため、債権者が厳格な債権管理を行うようになれば、時効が完成するケースは減少するかも知れません。

2 職業別の短期時効の廃止

 改正前の民法では、客観的起算点から10年の消滅時効を原則とする一方、個別の債権の種類によっては短期の消滅時効期間を定めていました。

 具体的には、以下の職業の債権は、かなり短い消滅時効期間となっていました。

 医師、薬剤師、助産婦、工事の設計や施工を業とする者など:3年(旧170条)

 弁護士、卸売商人、小売商人、一部の教育関係者:2年(旧171条、172条)

 飲食店、旅館など:1年(旧174条)

 改正民法では、これらの職業別の短期消滅時効期間は全て廃止され、上記の債権に関しても、「主観的起算点から5年または客観的起算点から10年」の規定に統一されました。

 例えば、飲食店の「ツケ払い」の場合、改正前であれば、1年で消滅時効の援用によって支払義務がなくなりました。

 これは飲食店にとって、大変不利な決まりごとです。

 しかし、2020年の改正によって、ツケ払いのお金についても、少なくとも5年へと時効期間が延長されることになりました。

3 商事消滅時効の廃止

 商事取引、簡単に言えばビジネスで行った取引については、民法の特別法である「商法」が適用され、改正前の民法より短い5年という消滅時効が定められていました(旧商法522条)。

 ビジネスにおける迅速な決裁を促す趣旨でした。

 しかし、実はどのような債権が商事取引として短期消滅時効の対象となるのかについては明確な基準がなく、紛争のもととなっていたことから、この特別扱いは廃止し、商事債権についても先述の「主観的起算点から5年または客観的起算点から10年」に統一しました。

4 不法行為による損害賠償請求権

 故意過失で他人の所有物を壊してしまった、あるいは誰かの生命や身体を傷つけてしまった場合は、それによって生じた損害を賠償しなければなりません。

 これが不法行為です。
 不法行為の損害賠償請求権にも消滅時効に関するルールがあります。

 旧法では、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年」の消滅時効にかかり、「不法行為のときから20年」の除斥期間にかかるとされてきました。

 「除斥期間」とは、当事者が時効の援用(時効を裁判上で主張することです)をしなくても債権消滅の効果が発生し、途中で時効のリセットなどもされない絶対的な期間として扱われてきました。

 しかし、改正後は、この20年も除斥期間ではなく、消滅時効期間と取り扱うことになりました(改正法724条)。

 また、不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、人の生命や身体の侵害によって生じた損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから5年」の消滅時効期間となり、被害者保護が図られました(改正法724条の2)。

 

 以上ご説明した他にも、今回の民法改正では、定期金債権(年金など)の消滅時効期間の変更、時効完成の障害事由の整備・追加、時効の援用権者の範囲の明文化等といった、時効のルールに関する重要な改正がいくつも行なわれましたが、全てをここに説明する紙幅はありません。

 また、一般の方が、これらの改正後のルールを全て正確に理解するのはなかなか難しいでしょうから、ご不明な点は専門家に相談するのが安心かと思います。

5 改正後の法律適用はいつから?

 なお、法律の改正によって全てを変えてしまうと混乱が予想されるため、附則に「経過措置」が設けられています。

 この経過措置により、時効に関する改正後の法律が実際に適用される対象は、改正後(2020年4月1日以降)の法律行為に基づく債権債務となります。

 例えば、借金をしたのが2020年3月31日以前であれば旧法が適用され、同年4月1日以後であれば改正法が適用されます。

6 時効の確認は改正前後も変わらず弁護士へ相談を

 当法人では、時効に関するご相談も多く承っております。

 「自分の借金は時効が成立をしているのではないか?」という方は、一度弁護士にご相談頂ければと思います。

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